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カワルが変わる



クシャミをすると人格が変わる少年カワル。
でも本当は…

ちょこっとSFなラブコメです。





第一章/「未知との遭遇」



ある所に、時宗(ときむね)カワルという少年がいました。
中学生になっても転んで泣くような、気が小さくて、たよりな〜い男の子です。

「わっ!うえ〜ん!!痛いよ〜!」

その子には、堤(つつみ)ありさという幼なじみの女の子がいて、
いつもカワルの面倒をみてくれていました。

「だいじょうぶ?カワルくん。」

カワルに近づき、なだめるありさ。

「ありさ〜っ!」

カワルはありさに抱きつく。
しかし最近、そのカワルがおかしな変化を見せ始めたのです。

放課後、誰もいない公園で、カワルはラジカセのスイッチを入れた。
音楽が流れ、それに合わせてありさがバレエを踊る。
近くに座ってそのダンスを観ているカワル。


軽やかな動きでみごとに踊るありさ。最後までバッチリポーズをキメて終了。
音楽が終わった所でラジカセを止めて、拍手をするカワル。

「すごーい!ありさ、かっこいーっ!!」

「うふふ、ありがとう、カワルくん。」

笑顔だったカワルだが、少し元気がなくなる。

「…いいなあ、ありさは…バレエっていう特技があって…
ボクなんか、何もとりえがないもん…」

「そんなことないわ。カワルくんにだって、何かいい所があるはずよ!」

そんなカワルを励まそうとするありさ。

「どこが?」

「えーっと…」

しかしこれといってカワルのいい所が思いつかなくてつい間が開いてしまうありさ。

「…やっぱり何もないんだ〜っ!!」

泣き出すカワル。

「あ、ほら!カワルくんは…とっても優しいじゃない!素晴らしいわ!!」

あわててフォローするありさ。

「ダメだよ…それだけじゃ…ありさを守れない…」

うつむいたままそうつぶやくカワル。

「え?」

よく聞こえず聞き返すありさ。

「ううん、何でもない。」

カワルは首をふり、帰ろうとした。

そこにおかしな二人が現れる。

「ちょっとラソー、本当にこの地球にいるんでしょうね!?」

「はい、確かにコンピューターがこの近くにいると…」

風変わりな衣装を着た体格のいい男と、
ありさ達と同じくらいの年ごろの女の子が林の中から出てきた。

ラソーという男は計算機ほどの大きさの探知機のような機械を持っている。

後ずさるカワルとありさ。カワルはおびえてありさの後ろにかくれる。

「私の好みはー、男らしくて、かっこよくて、強くて、
勇気があって、一途に女性を愛する人…」

「その男がすぐ近くに存在するはずなのですが…」

「どこ?どこなの?私の王子さまは!」

キョロキョロするスターナ。

カワルの側に来ると、機械がピーと鳴る。

「姫、この少年です!」

「何っ!?」

「時宗カワル、14才、まちがいありません!」

カワルをジロジロ見るスターナ。

「この子が〜?」

ありさ、後ろで恐がって震えるカワルをかばうように前に出る。

「あなたたち、いったい何なの!?」

「私はスターナ!こっちは召使い兼ボディガードのラソーよ!」

「このお方は、地球からはるかかなた10万光年にある、
マイル星からいらした、姫ぎみであらせられる!」

えらそうに信じられないことを言うおかしな
二人にあきれながら聞くありさ。

「マイル星?スターナ姫?何それ?」

しかしカワルはすぐに信じてパニくる。
昨夜、オレンジ色の光がこの辺りに消えて行くのを観たのを思い出した。

「ありさ、こいつら宇宙人だよ!大変だ!
きっと地球を侵略に来たんだよ!!うわああああん!恐いよ〜!!」

「カワルくん、おちついて!」

スターナ、うるさそうにわめく。

「あ〜!もうっ!!ラソー、まちがいでしょ!?
この子が私の好みのタイプだなんて!!」

「いえ、確かです。コンピューターがこの少年を指しております。」

ラソー、スターナに責められ、ややたじろぎながらも主張する。

「まるっきり正反対じゃない!こんな弱虫、
私の結婚相手になんか、ふさわしくないわ!!」

「結婚相手ですって!?」

びっくりするありさ。

「僕、宇宙人と結婚なんて嫌だよ〜!!」

泣きながら嫌がるカワル。

「私だって嫌よ!最高のだんな様を探すためにこの地球まで来たのよ!
ラソー、他を探すわよ!!」

「人違いだって。行きましょ、カワルくん。」

その場を立ち去ろうとしたが、ラソーに止められる。

「ちょっと待った!我々を見られたからには
このまま返すわけにはいかない…。」

「はあ!?あなたたちから姿を見せたんじゃない!」

「問答無用!!」

ラソー、銃のような物を出してありさに向ける。

「何するの!?やめてー!!」

おびえるありさ。

「ハ…ハ…ハックション!」

緊張感をぶち壊すように、カワルがクシャミをする。

こけるラソーとスターナ。

スターナ、あきれて言う。

「て、もう、こんな時にクシャミをするなんて、本当に変な子ね〜!」

気を取り直して立ち上がるラソーに素早く近寄るカワル。

「カワルくん!?」

カワルがラソーの持っていた銃を蹴り上げる。
銃を落とすラソー。カワルはそれを蹴飛ばす。

「わっ!?なっ…こやつ、急に態度が変わりおった…」

「…ありさに何かしたら、俺が許さねえ!」

今までと違う口調でどなるカワル。ラソーとスターナ、驚く。

「ウソ…これがさっきまで泣きわめいていた男の子?」

「最近、カワルくんはクシャミをすると、
まるっきり性格が変わって強くなっちゃうのよ…。」

「ふんっ…しかし、このラソーにかなうものか!!
思い知らせてくれる!」

カワルのネクタイをつかむラソー。しかし、
その手首を掴み、ねじって離し、殴り倒すカワル。

「うっ…!うわっ!!な、何だ!?この力は…」

「思い知らせるんじゃなかったのか?」

ひっくり返り驚くラソーだが、立ち上がりカワルに向かっていく。

「くっ…うりゃあああ!!」

ラソーの攻撃をすべて受け止めるカワル。

蹴りとばされ、倒れるラソー。

「うわああっ!!」

キョトンとするスターナ。

「私の星で一番のボディガードのラソーを倒すなんて…すごい…!」

「これにこりたら、さっさと地球から出て行くんだな!」

微笑してクールに言うカワル。

強いだけじゃなく、顔つきもしゃべり方も
先ほどまで泣いていた子供とは思えない。

「…かっこいい…」

スターナの意外な言葉に驚くみんな。

「はあっ!?」

スターナ、カワルにしがみつく。

「惚れた!この子よ!!!私の理想のタイプは!」

「え〜っ!?」

鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているラソー。

「スターナ姫…?」

カワルの手をとりウットリ見つめて言うスターナ。

「カワルとやら、私の夫となり、王となり、
共に私の星で幸せに暮らそうではないか!」

「は?」

ありさ、カワルの手からスターナの手を離す。

「じょうだんじゃないわ!いいかげんにしてよ、あなた達!!
行きましょう、カワルくん!」

カワルを引っぱって歩き出す。
するとまたカワルがクシャミをして、甘えん坊にもどる。

「ハ、ハ…ハックション!…うん、帰ろう、ありさ。」

二人、手をつないで帰っていく。
去った二人の方を見て、顔をしかめるラソー。

「なんだ?あいつは…」

「ラソー、何としても私はカワルをつれて帰るぞ!」

「し、しかし、どうやって…」

「カワルはクシャミをしなければ弱い。さらってからクシャミをさせればよいではないか!」

「なるほど…さすが姫!」

「ハハハハハハ!」「ハハハハハハ!」

単純な発想で、おかしな宇宙人・スターナとラソーは
カワルを自分達の星に連れて行こうとたくらんでいます。はたしてどうなることやら…。




第二章 /「誘拐」


「じゃあね、カワルくん、また明日!」

「うん、ありさ、バイバーイ!」

家の前で別れる二人。

カワルが一人になった瞬間、急にオレンジ色の光に包まれる。

「わっ!!な、なんだ!?」

機械音と共にその光はカワルの体をクルクルと回して空中に上げていった。

「うわあああああああっ!!」

宇宙船の中。カワルは銀のわっかにおさえられ、
気絶している。スターナとラソーがその側で立っている。

「簡単だったわね。」

「はあ…」

あっけなく計画通りにカワルをさらうことができてちょっと拍子抜けの二人。

「それじゃあさっそくカワルにクシャミをさせて!」

「はっ!では、これを使いましょう!!」

ラソーがポケットからコショウの瓶を出す。

「なんだ?それは…」

「これは地球で、食べ物にかけるコショウという物です。
クシャミをさせるのにもってこいの物だと、コンピューターが言っておりました。」

「そうか、よし、試してみよ!」

「はっ!」

ラソーがカワルを引っぱり上げる。

「おい!目を覚ませ!」

目をさますカワル。

「う〜ん…」

ラソー、コショウをカワルにふりかける。

「ハ…ハックション!」

「やった!!クシャミをしたぞ!」

喜ぶスターナ。

しかし、カワルは変わらない。

「な、何!?ここ、どこ?うわあ!君達、さっきの…!!」

キョロキョロとあわてるカワル。

「変わらんではないか」

「もう一度やってみましょう」

再びコショウをふるラソー。

「ハ、ハ…ハックション!やめてよ…ハックション!
鼻がムズムズする…ハックション!
ここって、もしかして宇宙船の中?僕を帰してよー!うえ〜ん!!」

「…ダメですねえ…」

「なぜだ?なぜ変わらんのだ?」

困惑する二人。

「あーん!!ありさ〜!助けて!!」

泣き喚くカワル。

「もしや…あの少女…。姫、あの少女も必要なのでは?」

「何?どういうことだ?」

「試してみましょう」

「ラソー?」

ラソーは宇宙船の機械をいじり、ありさの家の部屋から
ありさを不思議な光で浮かび上がらせ、宇宙船の中に吸い込んだ。

「きゃあああああ!」

その悲鳴を聞いてカワルがピタリと泣きやんだ。

ありさはカワル達のいる船内に現れ、倒れこんだ。

「キャッ!」

「ありさ!!」

「カワルくん!?」

「ラソー、なぜ女まで…」

「あなた達、まだあきらめていなかったの!?すぐに私達をもどして!!」

立ち上がるありさ。

「おまえも我々の星に来るのだ…私の嫁としてな…」

「なんですって!?」

ビックリするありさとカワル。

「ラソー、この女が気にいったのか?」

「はい、姫、私も結婚相手を連れて帰りたいのです。」

「ふむ、まあ、いいわ!」

「ありがたき幸せ…」

スターナに頭を下げるラソー。

「ちょっと、勝手に決めないでよ!私は嫌よ!!
あなたと結婚するのも、地球から離れて別の星に行くのも!」

「すぐになれる。我々の星はそれは素晴らしい所だからな」

「そうよ。それに、ラソーは姫である
私のお目付け役だから、いい暮らしができるわよ。」

「嫌よ!絶対に嫌!!」

「ラソー、カワルは地球に戻していいぞ。
弱虫のままのカワルでは、私は夫にしたくない。」

「はっ、姫。承知いたしました。」

「カワルくん、助けて!」

ありさがカワルに近づこうとするのをラソーが肩を掴んで止める。

「ムダよ。カワルはもう変わらないわ。」

「ハッ、ハ…ハックション!!」

カワルが大きなクシャミをした。

「クシャミをしても泣き虫のまま…」

カワルが立ち上がり、銀のわっかを自分の力で引きちぎる。驚くみんな。

「な、何っ!?」

「ありさを…ありさを放せ!!」

強気でりりしいカワルが睨んでいた。

「か…変わった…!」

「やはりそうか…」

「どういうことだ?ラソー。」

「姫、私は試したのです。」

ラソー、ありさを放す。

ありさとカワル、お互いに駆け寄り、抱き合う。

「カワルくん!」

「ありさ!」

スターナ、ちょっとムッとする。

「カワルはクシャミで変わるのではなく、
この少女のために変わるのです!!」

「えっ!?…っということは…カワルは…」

次の瞬間、カワルが宇宙船の底をこぶしで叩く。宇宙船がゆれ、みんなよろめく。

「オレ達を地球にもどせ!さもないと…」

宇宙船の中に警告音が鳴り響く。

「わあああ!!今帰すから、宇宙船を壊すな!」

というわけで、カワルとありさはすぐに宇宙船から降ろされて、無事に地球に帰されました。

それにしても、なぜカワルは、さっき、
クシャミをしても変わらなかったのでしょう?
そもそもカワルは、どうして、性格が変わるようになったのでしょう?

皆さんももう、だいたいわかったと思いますが…これから真相をお聞かせします。





第三章 /「カワルの秘密」




宇宙船の中、ラソーがスターナに話す。

「こんな話を聞いたことがあります。
この宇宙のどこかの星に、子供のころは守ってくれる者がいないと
生きていけないほど、か弱くたよりないが、大人になる時、それまでとは逆に、
強く、勇気あふれる者へと、極端に変化する人種がいるのだそうです。」

「え…!?それじゃあ、カワルはもしかして…地球人ではないのか?」

「そうかもしれません…。少年が大人になる時、それは…恋をして、
その女性を守りたいと思うことじゃないでしょうか?」

「では…カワルは本気でありさのことを…」

「はい…姫、残念ですが、彼の気持ちを変えることはできないと思われます…。」

スターナ、うつむく。

「そうか…。」

「スターナ姫…?」

スターナ、顔をあげる。

「…では、もうこの地球には用はないな。次へ行くぞ、ラソー!」

「はあ?」

「今度こそ私の好みの…男らしくて、かっこよくて、強くて、
勇気があって…そして、私だけを一途に好きになってくれる人を、探すのよ!!」

ふっきるように明るく元気に言うスターナ。

「はっ、かしこまりました!姫!!」

それを嬉しく、笑顔で答えるラソー。

オレンジ色の光が二人の辺りを照らしている。
機械音のするその中、ありさとカワルが上を見上げている。

「…ハ…ハックション!!あっ、宇宙船だ!」

カワルは元の甘えん坊にもどる。

ラソーとスターナの声が聞こえてくる。

『すまなかったな、二人とも。我々は地球を去る。さらばだ!』

『カワル、ずっとありさを守り続けるのよ!本当の男になれ!!さよーならー!』

もう害はないと安心して笑って宇宙船を見送るありさ。

「さよなら!スターナ、ラソー!元気でねー!!」

カワルも手を振る。

「バーイバーイ!!」

宇宙船はヒュンッと空の彼方に立ち去った。

「…行っちゃったね…。」

「うん…。」

まるで夢を見ていたような感じ。ふとカワルがつぶやく。

「ありさ…本当の男になるってどういうことだろう…?」

「…んー…、普段のカワルくんは、甘えん坊だけど優しくて、
私は良いと思うの。変身したカワルくんは、
強くて頼りになるけど…優しさが足りなくなってるようで…ちょっと恐い時があるわ。」

「そんな…僕はありさのために…」

うろたえるカワル。

「本当の男になる…それは…大人になるってことじゃないかしら?」

「本当の…大人になる…?ハ…ハックション!!」

またカワルがクシャミをした。変わってしまうのかとあわてるありさ。

「カ、カワルくん…?」

しかしどうも様子がおかしい。

「ありさ…。」

「…今のカワルくんはどっちのカワルくんなの?」

「僕は…あれっ?僕…」

「甘えん坊のカワルくんでも、強気なカワルくんでもない感じ…。」

「ありさ、僕は時宗カワル!ありさの幼なじみで、ありさのことが、大好きな…」

落着いた口調で話すカワルは、今までのカワルとはあきらかに違っていた。

「カワルくん…。」

「何にも変わっていないよ。」

しかし優しい笑顔でそう言うカワルにありさも答える。

「そうね。私もカワルくんのこと…」

ありさはカワルの耳元で何かささやく。

「えっ…?」

「キャ〜!言っちゃったー!!」

恥ずかしがって走り去るありさ。

「ちょ…待って!ありさ!!もう一回言って!」

それを追ってカワルも走って行く。














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