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劇用に作った短編です。 演劇部のタカビー少年・天馬直人の、天国から地獄のエピソードです。 |
『オレ、天馬直人(てんばなおと)!中学二年生。
演劇部部長。いつも主役を演じている生まれつきのヒーロー!!
オヤジが舞台作家で、小さいころから、何度も商業演劇に出たりもしているし、
自分で言うのも何だが、天才だと思う!ハハッ』
学校にて。女の子達がざわめいている。
「キャーッ!直人くーん!!」
「かっこいーっ!」
階段の踊り場で、女の子達に囲まれている直人。
「はい、これ、差し入れ!今度の文化祭の劇も楽しみにしてるからね!!」
直人はファンの女の子にお菓子をもらった。
「サンキュー!あ、そうだ!これから、みんなでカラオケしに行かない?!」
「え?でも、演劇部の稽古があるんじゃあ…」
「大丈夫!オレはさほど稽古しなくても、できちゃうから!!稽古に時間かけるのは才能のない奴だけ!」
「アハッ、直人くんは小学生のころからお芝居やってるもんね。」
「そりゃあ、他の人とは違うわよ〜!」
「そういうことー!さあ、行こうぜ!!」
その時、直人を止める声がする。
「直人!!」
髪の長いかわいい女の子だ。
「なっ…しおり?何だよ!」
「また部活さぼるつもり?!」
『彼女がオレの彼女、花岡(はなおか)しおり!美人だけど、ちょっとおせっかい。
でも、オレにベタ惚れなんだよね〜。学校の劇ではいつもそのまんま、オレの恋人役!
すべてがオレ中心に動いている、そんな感じでオレは毎日がすっげえ楽しい!』
「あなた部長でしょ?下級生に教えなきゃいけないこともあるのに、
いつもわたしに任せてばかりで…それに、相手役がいなくちゃ稽古しづらいわよ!」
「ハッハーン、それってヤキモチ?」
にやけて言う直人。
「え?」
「大丈夫だよ!オレが本気で好きなのはしおりだけだって…!」
しおりに近づき、耳打ちする直人。
「そっ、そんなんじゃ…」
「なんなら、あとで二人きりで稽古してやるよ!」
「…バカ!」
「アハハハッ…じゃあな!」
「んもう、直人ったら…」
女の子達の所へ走って行ってしまう直人。
そして、数日後の放課後。
「さて、今日は久しぶりに演劇部に行ってやるか。やっぱオレがいないと、あいつら、しまらないからな。」
直人が演劇部の部室に入ろうとしたら、窓からチラリと見えたのは、しおりともう一人、
同じ学年の佐々木雄介(ささきゆうすけ)だった。彼も演劇部だが、いつも直人のひきたて役だった。
「なっ…なんだ?二人きりで…何やってんだ?」
直人はこっそりと窓から様子を伺い、聞き耳をたてる。
「私も一緒に行くわ。やっぱり私にはあなたが必要なの…」
しおりが佐々木に言った。それを聞いてビックリする直人。
(「えっ…?!どうして…しおり…佐々木なんかと…」)
「君にはあいつがいるじゃないか。」
「ううん、違うのよ。あの人はただの幼馴染。私はあなたに会って、初めて本当の恋をしたの。」
二人の会話を聞いてショックを受ける直人。
「うそだろ…そんな…」
佐々木は目立たないが、さわやかな少年。
部室の外でガタッと音をたててしまう直人。中の二人が気づいてこちらを見る。
「直人…?」
その瞬間、直人はいたたまれなくなり、その場を去ってしまった。
「くっ…!」
「直人!!ちょっ…待って!直人!!」
「チクショウ…!何でだよ!!
しおりの奴…、オレより、あんな奴の方がいいってのかよ!クソッ!!」
がむしゃらに走り、直人は一人でいた。
「…もうおしまいだ…劇も…もうできない…何もかも…オレは…なくした…」
直人は土手に座って泣いていた。
そこへ偶然構田が来る。買出しに出かけていて、これからまた学校にもどる所らしい。
「あれ…?天波先輩?どうしたんですか…?」
「…オレはもう…演劇部をやめる…」
「えっ!?どうして?」
「ヒーローは佐々木がやればいい…オレは用済みだ…」
「え…?あ、でも…」
「じゃあな…」
「あっ…天波先輩!」
直人は帰ってしまった。
その後、部室で、そのことをみんなに話す構田。
「ええっ!?天波くんが演劇部をやめる?」
驚く浅宮。
「はい…何だかすごく元気がなかったです…」
浅宮は腹をたてて言った。
「まったく…どこまで勝手な人なの?もう台本も配役も決まってるのに…」
しおりは悲しげな表情だが、みんなに言う。
「…しかたないわ…とりあえず、稽古を続けましょう。」
「花丘さん!あなた彼に甘すぎるんじゃない?」
厳しく言い放つ浅宮を止める構田。
「浅宮先輩!」
「そんなこと…ないわよ。私…直人を傷つけちゃったみたい…」
うつむくしおり。
「もしかして、さっき見られたことで…?」
佐々木が言う。
浅宮と構田は何のことかわからないので首をかしげる。
第三章 /「真相」
数日後の放課後、舞台で稽古をしている演劇部。
「ストップ!ちょっと待って。佐々木くんはもう少し前に出て、
花丘さんは佐々木くんをもっと頼るように動いて。あくまでも主役は佐々木くんなんだから。」
浅宮が部員にアドバイスをする。
「ご、ごめんなさい…」
「オレ、主役なんてやったことないから…。」
しおりも佐々木もぎこちない。
「うーん…やっぱり主役は天波くんじゃないと、盛り上がらないわね…。
悔しいけど、天波くんの演技が群を抜いていることは認めるわ。」
「あ…浅宮先輩…。あれ…」
構田がそっと指差す。
「はっ…天波くん…」
しかししおりが言う。
「シッ!気づかないふりして続けましょう。」
「え?ん、うん…」
直人は体育館の窓から隠れるようにコッソリ稽古の様子を見ていた。
「みんな…オレがいなくても、気にしないでやってるな…。
オレがいない方が自分達が目立てると思って、せいせいしてるのかも…!
…何やってんだオレ?いまさら戻れるかよ!
芝居は好きだ…けれど、これからあいつらとどう付き合っていけばいいんだ!
しおりは佐々木と付き合うつもりらしいし、やめるって言った手前、どの面下げて行けばいいんだよ!
…だけど、こうして観ると、浅宮はただの裏方じゃなかったんだな…。
てきぱき指示もして…ありゃ結構いいカントクじゃんか…。それに、構田も、よく動いてる…。みんながんばってるな…。
…あの場所に…オレも…いたんだよな……」
うつむく直人。
しばらくして、気配を感じ、顔を上げる直人。
「あっ…」
直人の目の前にみんながそろっていた。
「天波先輩!きっともどってきてくれるって信じてましたよ!」
うれしそうに言う構田。
「なあに?こんな所でコソコソと…目立たないようにしてるなんて、天波くんらしくないわよ!」
浅宮は相変わらず嫌味っぽいが、直人を迎えてくれた。
「主役は遅れて登場か?直人。」
佐々木もからかうように言う。
「直人…。みんなあなたを待ってたのよ。」
一番優しく迎えたのはやはり彼女だ。しかし、直人は黙ってうつむいたままだ。
「…直人?」
「…みんな、ごめん!」
思いもよらない直人の謝罪にみんな驚く。
「オレ…今まで、みんなのこと見ないで、自分ばっか楽しんでた…。
劇は一人じゃできないのに、自分だけでやってるように思ってたんだ。
みんなで一つの作品を作る…それが楽しかったんだよな…。」
「直人…」
「そうですよ!天波先輩!!また一緒に舞台を作りましょうよ!」
元気に励ます構田。
「どうしちゃったの?天波くん…」
浅宮は、いつも自信満々の直人が人に誤ったことにとても驚いている。
「もうみんなと劇ができないと思ったら…俺には何もなくなっていた…。
それまで満たされていたものが一瞬にして消えた…。大好きな芝居と…そして…しおりも…」
かすかに体を震わせている直人。
「え?何?あなた達…別れたの?」
ぶっきらぼうに言う浅宮。
「えっ!?そうなんですか?」
ビックリする構田。
「部活をさぼったのも、他の女の子と遊んでいたのも誤る!
でも、オレ、なくして初めてわかった…どっちもオレにとってはかけがえのないものだってことが…。」
涙ぐんでいる様子の直人。しおりは静かに言った。
「…直人…!…何もなくしてなんかいないわよ。」
「え…?」
佐々木は笑って直人の肩を軽く肘でつつく。
「もしなくしたら、こんなにつらいってことがわかっただろ?なくさないように、もっと花岡のこと、大事にしろよ。」
「え?あの…」
わけがわからないという感じの直人にしおりが言う。
「もう…!直人ったら、まだ台本全部見てないの?」
「は?」
「ほら、ここ!」
しおりは劇の台本の一部を指差して直人に見せた。直人はそこを読む。
「【あの人はただの幼馴染。私はあなたに会って、
初めて本当の恋をしたの。】…あ〜っ!?これ、佐々木に言ってた…」
「そう、私は部室で、佐々木くんとセリフの稽古をしてただけ。相手役のあなたがいないからね。」
「…マジかよぉ…?は〜…」
直人、力が抜けた感じ。
「なあんだ。誤解だったの?」
人騒がせな、という感じの浅宮。
「良かったです。二人が仲良しなの、僕も見ていて楽しかったですから。」
楽しげな構田。
「本当に良かったわ。やっぱり天波くんがいなくちゃ演劇部は頼りないもの。」
厳しい浅宮もやはりそこは認めて直人に言った。
「頼むぜ、直人。なさけないけど、オレじゃ主役は無理だ。」
佐々木も直人の才能を認めて言った。
「私も…相手役は直人じゃないとダメだから…」
「しおり…」
直人に歩み寄るしおり。
「これはお芝居じゃないわよ。…私、直人のことが好き…これからもずっと…大好き!!」
「しおり…!」
直人、たまらずしおりを抱きしめる。
「うわあ、本当のラブシーンだ〜!」
照れながらも喜ぶ構田。
「コラッ。私達はお邪魔なようだから、帰りましょう。ほらほら。」
「あ〜!観たいのに〜!」
「お邪魔虫は退散退散!」
浅宮と佐々木、構田をひっぱって去っていく。
『オレ、天波直人!じつは結構内気。好きな物なしでは生きていけない。
オレの自信は彼女しだい。だから、大事な物はなくさないように、シミュレーション。
最悪な場合を想定して、失敗しないように考えておかなきゃな。
それができたら、ホントにオレはヒーロー!彼女はヒロイン!
何があっても乗り越えて行ける! オレは演劇もしおりも、大好きだから!!』
拍手、歓声。ガヤ。
幕。
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