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〜SF未来ストーリー〜




自分と、ある少女が崩れていく夢を何度も見るサイボーグ隊員・マイティーK。
国際的犯罪グループである、ブラック・ウィルスを敵に活躍する。
その中ですべての謎が明らかになっていく。



第一章 /「夢の中の少女」


空は青く、暖かい春の陽気。
その気持ちのいい穏やかな午後を、人々がゆったりと過ごしている。


ある高校の校庭では、部活動に励む生徒達が元気な声をあげている。
その校庭の隅では芝生の上で少年が寝そべり、少女がその横で座っていた。

少年は眠っているわけではないが、目をつむってくつろいでいる。

茶色いボサボサの髪をしていて、身長は175cmあるかないか、かわいらしい顔つきである。
服装は赤いノースリーブのシャツに、紺のズボンをはいている。


そんな少年を幸せそうに優しい笑みを浮かべて見つめている少女。
その少女は、黒くて長い髪、背は小柄で155cmほど。
グリーンの瞳で、ミニスカートをはいている、チャーミングな少女である。

「ねえ、ケイヤ。私のこと…好き?」

突然少女が少年に聞いた。おとなしそうな顔からは意外に、さほど照れて言いにくい感じでもない。

「な、なんだよ?今更…。」

急な質問に目を開けて、少し赤くなるケイヤと呼ばれた少年。照れたのは彼の方だった。青い瞳がいっそう幼く見える。

「ちゃんと答えて!」

やや声を荒げて、怒ったように強気にせかす少女。

「す…好きに決まってんだろっ!じゃなきゃつきあわねえよ!!」

言い方はぶっきらぼうだが、照れて顔をそむけて言うケイヤは、つきあってるとはいえ、まだかなりウブなようだ。

「じゃあ…もし、私が…」「えっ?」

今度は言いにくそうに少しうつむいて言う少女。

「何でもない…」「何だよ?」

起き上がるケイヤ。

「何でもなーい!」

明るい声で答えて、走り出す少女。

「こらっ、待てよ!」

立ち上がり、追いかけるケイヤ。若い恋人同士がたわむれているとしか見えない光景だが、
彼女が何を言おうとしたのか、彼は気になった。その時、カッと辺りが白く光った。

「なっ…」

びっくりして後ろを振り返るケイヤ。少女はあわててケイヤに駆け寄ろうとする。

「ケイヤ!」

風が激しく吹き出す。再びケイヤが少女の方を見ると、少女がケイヤの手を握った所だった。
その瞬間、少女の姿はスッと消えた。
しかし、ケイヤはそこにいた。少女に握られた手は、手首から彼女と共に消えたのだ。

「メイテ…?」

ケイヤはそうつぶやき、呆然と立ち尽くしていた。光と風の中で、ケイヤはしだいに崩れていった。
髪の毛も服も皮膚も…ちぎれていく。

「うわああああああ!」

その痛みと恐怖で叫び声をあげるケイヤ。

西暦2000年代も半ばを過ぎたころ、地球警察特別部隊・通称IPZ(アイ・ピー・ゼット)では、
人間によく似た、優秀で驚異的なパワーを持つサイボーグを隊員の中に入れていた。


その数はまだ2体だけで、その内の一体が今、IPZ隊員寮で目を覚ました。


普通の人間である隊員の一人の青年と一緒の部屋にいる。
サイボーグといえども眠るらしい。
二段ベッドの上で汗をかいて、うなされて起きた様子。

「またあの夢か…。」

彼は夢の中の少年・ケイヤとは少し違う姿だ。
ボサボサの髪でかわいらしい顔つきなのは似ているが、
髪の色は緑色で、目は琥珀色、顔つきがいくらかりりしい。

「だいじょうぶか?マイティーK。」

「タキオ…。」

下のベッドから心配そうにKに話しかける青年。彼はタキオ・スガタ。
黒い髪で茶色の目をしている。身長はKより少し大きいが、細身。23才の好青年だ。
Kがサイボーグでも、人間と変わらず接してくれる友達の内の一人だ。Kの一番の親友である。

「検査してもらった方がいいんじゃないか?」

「ああ…。」

片手で頭をかかえて、息を切らせているKをいたわるように言うタキオ。

IPZ科学研究所にて、部外者立ち入り禁止の区域にある、一室・通称マリィルームで、
Kは研究室のベッドに横たわり、頭にコードのような物をつながれ、体の様子を調べられている。

「どうですか?ローラン博士。」

女性博士に質問するK。

「うん、マリィって呼んでっていつも言ってるでしょ?」

色っぽい声でウインクして言うマリィ博士。Kは赤くなった。

「べつにどこも異常はないわよ。」

マリィ博士はKの頭に繋がれたコードを取りながら話した。

「じゃあ、どうして…」

「あなたの電子頭脳は驚くほど人間に近く作られているわ。
想像力も豊かだから夢を見る力もあるのよ。気にすることないわ。」

「でも、何度も同じ夢を見るっていうのは…」

「夢に出てくるその女の子がうらやましいわ。」

また赤くなるK。彼女はマリィ・ローラン。
サイボーグの細部を担当するとても優秀な博士なのだが、
男を誘惑するような態度をとる人だ。

胸の開いた服、ミニのタイトスカート、
誘うように見つめる青い瞳、艶やかな唇。
Kのことがお気に入りらしく、いつもこの調子で純情なKをドギマギさせていた。

かといってKは理性と戦っているわけではない。
たよりになる姉や母のように思っているようだ。

その時、ピーピーという機械音がする。

Kは左手首のバンドの側面を人差し指と親指で挟むように押した。
すると、通信機になるらしい。バンドから上半身の男の姿が立体映像として浮かびあがった。

『マイティーK、出動命令だ!』

IPZの隊長からの指令だ。

「了解!」立ち上がるK。

「気をつけて、いってらっしゃい!」

投げキッスをするマリィ博士。

ビル街を暴走している車が一台あった車といってももうほとんどがタイヤのないタイプで、
少し宙に浮いて走る物になっていた。地域警察のパトカーが数台、追いかけていたが追いつけない様子。

『現在手配中のコンピューターあらし、通称ブラック・ウイルスと
見られる容疑者グループを発見!ただちに逮捕せよ!!』

パトカーに響く通信もむなしく犯人とは離されて行く一方。

「くそっ、スピードが出ないぞ!」

「パトカーのコンピューターが汚染されているんだ!」

パトカーの中にいる警官二人が困っている。
ブラック・ウイルスは、コンピューターを狂わせてあらゆる犯罪を起こしているグループで、
全国で手配されている。首謀はかなりの科学知識のある者らしいがその正体は不明である。

「へっ、追いつけるものか!こっちにはマザーコンピューターがあるんだ!!恐いものなしだぜ!」

ブラック・ウイルスのメンバーの一人の、髪の赤い男が得意げに言った。
顔にペンキのような物を塗りたくっていて、17才くらいの不良少年といった感じだ。

「すごいわ、ジェドー!あんたのパパって本当にブラック・ウィルスだったのね!!」

その男の横から女が話かけた。どうやら彼女は最近仲間に入ったらしい。

「だから言っただろ、リューズ!オレとつきあってればそのうちこの世も征服できるってもんよ!!」

「キャハハハハ、サイコーッ!」

ジェドーに抱きついてはしゃぐリューズ。彼女は少しパーマがかった長い髪で、
茶色と金色のメッシュを入れていた。黒いサングラスをしていて鼻が高い。

「どうやら逃げ切れそうだな。」

あと一人、顔にニキビがたくさんある、太っていて小柄なトラッグという男がいた。
その車の横をシュッと何かが通りぬけた。

「ん、何だ?」 「どうした?トラッグ。」

ジェドーが運転しているトラッグに話しかけた次の瞬間、
トンッとボンネットの上に乗っている足が見えた。びっくりする3人。

「わっ!」

キキーッ!ドカッ!!

トラッグが驚いて車を柱にぶつけてしまう。ボンネットに
乗っていた者はその前に飛び降りた。それはKだった。

「このっ…!」

車から出てきてKに向かって銃を撃ち出すトラッグ。

Kはそれをギリギリでかわし、素早く近づいて押さえつけ、銃を取り上げる。ギョッとするトラッグ。

「ひっ!」

車の中のジェドーが叫ぶ。

「奴だ!奴がマイティーKだ!!」

リューズも驚く。

「IPZにサイボーグの隊員がいるって、本当だったのね!」

車から出ながらジェドーが言う。

「恐れることはない…。このマザーコンピューターの真の威力を試せるチャンスだ!」

「マザコンがどうしたって?」

Kは少しバカにしたように笑って言った。

「ふんっ、バカめ!これをくらえ!!」

ギターの形をした機械を弾き動かし、音と共に特殊な電波を出して、
Kのコンピューターを操ろうとしている。
ビクッと体が震えたK。

「マイティーK!そいつを放せ!!」

ジェドーが命令すると、Kはスッと放した。トラッグは自由になった。

「よし、マイティーK、オレの前で膝まづけ!」

そのまま命令を続けるジェドー。歩みよるK。3人は緊張していた。
はたしてこれはKにも通用するのかどうか…初めて試すのだから。

すると、Kが肩膝をついた。

「ハ…ハハハ…」 「ヒヒ…」

ホッとして笑い出す3人。

「おまえはこれからオレ達のしもべだ!ハッハッハッハッ!!」

みんな大笑いをする。しかし次の瞬間、Kは素早くマザーコンピューターを蹴り上げた。

「ハ…」

キョトンとする男。

そしてKの指先からビームが出て宙に舞ったその機械を粉々に壊した。

ズガーン!パラパラと砕け落ちて行く。呆然としたまま立ちすくむ敵。

「そ…そんなバカな…」

パトカーのサイレンの音が近づいてくる。指をふうっと吹くK。IPZ男性隊員専用シャワールームにて。

「なんでマイティーKの電子頭脳はマザーコンピューターに操られなかったんだ?」

シャワーを浴びながら隊員仲間のサムがとなりのシャワーを使っているKに話しかける。

「さあ…?」

Kにもそれはわからなかった。

「Kは本当に無敵だよなぁ…」

タオルを腰に巻いて頭を拭きながら、タキオが言った。

「そんなことないよ」

Kは謙遜するように答えた。

「こうして見ると人間にしか見えないけどな。」

サムがとなりから覗き込みながら言うので恥ずかしくなるK。

「エッチ!」

Kは思わず目線の先を隠す。サムもタキオくらいの青年で、Kとも友人だが、
ちょっとナンパな一面もある明るい男である。

髪をタオルで拭きながら、廊下を歩くみんな。

「おい、知ってるか?新しくIPZ隊員に入った女の子、すっげえかわいいんだぜ!」

サムが少し興奮ぎみに話す。ガラスごしにリクリェーションクラブのプールが見える。

「ほらっ、あのコだよ!」飛び込み台に立つ少女を指差すサム。

少女はまるで飛び込みのプロのように、きれいなフォームでプールに飛び込んだ。
みんなが歓声をあげる。

「おーっ…!」

その姿に目を見開くK。

{えっ?}

水の中からザバッと顔を出す少女。

{か…彼女は…}

Kは驚いた。
そのコは黒髪ではなく青い髪だったが、長い髪にグリーンの瞳、
その顔はそのままあの夢の中の少女と瓜二つなのだ。


男達はポーッと赤くなり、見とれていた。何人かが「ヒューッ」と口笛を吹いた。
プールからあがってタオルで顔を拭いている少女。



そのコの側にいた釣り目の女のコがこちらに気づいた。

「あっ、K!」

その釣り目のコは大きな声をあげて手をふり、こちらに駆け寄って来る。

「ケーイ!」

「ミリサ…」

「よおっ!元気でやってる?」

バンッとKの背中をたたくミリサ。

「あ、ああ…」

ちょっぴり苦笑いで答えるK。彼女はミリサ・ファース。黄緑がかった長い金髪を高い位置でおさげにしている。
薄いブルーの瞳でけっこう美人だが男勝りで荒い。しかし、とても気さくな性格で、Kに好意を持っているらしい。

「そうそう、あんたをぜひ紹介してほしいっていうコがいるんだ。」

Kの肩に手を置いて話すミリサ。ミリサはKの背とほとんど同じくらいだ。
さっきの少女が歩みよってきた。
Kの顔を見つめている。

「ほらっ、彼がマイティーKだよ!」

ミリサが少女にKを紹介する。見つめ合ったまま少しの間、言葉が出ない少女とK。
ミリサが言う。

「彼女、あんたの大ファンなんだってさ!」

「あ…私、メイテ・キャロルといいます。」

{メイテ!?夢の中のあのコも確か…}

名前も一緒なのでびっくりするK。

「会えてうれしいわ…K。」

手を差し出すメイテ。

「あ…よ、よろしく。」

少し照れながら握手をするK。

「やあっ、メイテ!今の飛び込み、じつに芸術的だったね。」

別の男がわりこんできて、メイテに話し掛けてきた。

「僕はアルバ・サイモント。パパもIPZの上層部に務めていてね…」

これから長々と自慢話が始まるであろうと誰もが思ったその時、
メイテは「それじゃ、失礼!」と言って去ってしまった。

「なんで?」無視されたことにキョトンとするサイモント。

「はは…どうやらKにだけ興味があるみたいだな。」

笑うタキオ。

「そういうこと!あしからず!!」

鼻の下をのばしていたサイモントにシッシッと手ではらうようにして言うミリサ。

「ふんっ、ロボットが珍しいだけだろ!」

ちょっとプライドが傷ついた様子。サイモントはナルシストで家柄がよく、
二枚目ぶった気取り屋で、ほとんどの隊員仲間に嫌われていた。

「Kは気は優しくて力持ち、その上いい男なんだから、あんたなんかよりずっとモテるのさ!」

ミリサはキッパリと言い放った。

「Kは年もとらずに300年は生きるといわれてる化け物だぜ!」

サイモントは意地悪く言い返す。

「普通の人間の女となんかうまくいくかよ!!」

その言葉を聞いて悲しげな目をするK。
少し離れた所でメイテもそれを聞いていた。やはり悲しげな目をしていた。

「あんたよりか全然うまくいくだろうよ!」

ミリサは負けずに反論する。

「なんだとっ!」

怒るサイモント。

「おい、いいかげんにしろよ。」

タキオが仲裁しようとする。

「みんな見かけに騙されているだけだ。マイティーKなんてただの機械人形なんだ!
そのうち故障してスクラップになるのがオチさ!」

目を細めて馬鹿にするサイモント。
(もちろんそんなオチは作者は用意していない。)

怒りでミリサ達が震えていたその時、サイモントの背後にヌッと大きな男が現れた。

「化け物で悪かったなあ!」

「ス…スーパーJ!」

びくつくサイモント。JはKより先に作られたもう一体のサイボーグだ。
身長は2mを越えていて、たくましく、豪快で、Kにとって兄貴のような存在なのだ。

「きさま、オレ達サイボーグが人間に逆らえないとでも思っているのか?」

サイモントの衿を掴み、持ち上げ、にらむJ。

「は、犯罪者以外の人間に危害を加えたら罰せられるぞ!」

苦しそうにもがきながら言うサイモント。

「おまえの口の悪さは犯罪的だ!」

手を離すJ。

ドサッと落ちてしりもちをつくサイモント。

「てっ!」

「ガッハッハッハッ!」

大きな声で笑いながらJはKの肩に腕をまわし、つれていってしまった。
サイモントはその場からスゴスゴ逃げた。タキオ達はクスクス笑っている。

喫茶室にて。イスに座っているJとK。
テーブルの上にはティーカップが二つおいてある。サイボーグといえども紅茶くらいは飲めるらしい。

「どうした?K。元気がないな。」

JがKに話し掛ける。

「…スーパーJ、あんたも夢を見るか?」

Kはあの夢の意味を知りたいと思っていた。

「え?まあな。」

「どんな夢だ?」

KはJがその答えになるヒントをくれるかもしれないと身を乗り出して聞いた。

「そりゃあおめえ…言えやしねえよ…。」

スプーンをねじりながら少し赤くなって言うJ。

「…………」

その内容がなんとなくわかってKも赤くなった。まるで本当に二人とも普通の人間の男のようだ。

次の日の朝、マリィルームで検査をうけていたK。ベッドに座って結果報告を待っている。

「K、まだあの夢は見る?」

カルテに記入をしながら、マリイがKに尋ねる。

「え…いえ…」

「そう、よかった。」

「…でも、不思議なことがあったんです。」

「えっ?」

「その夢に出てきた女のコにそっくりなコが、最近IPZの隊員として入ってきたんですよ。」

「そう…それは不思議ね…。」

マリィがめずらしく真顔になった。

「今日はこれからそのコの歓迎会をやる予定なんです。あの…よかったら博士もいらっしゃいませんか?」

「まあ、K!お誘いうれしいんだけど、今日はちょっと大事な会議があるの。ごめんなさいね。」

いつものノリで体をくねらせて残念そうに断るマリィ。

「あ、いえ…それならいいんです。また別の機会にお誘いします。」

「うん、本当に残念だわ。せっかくKが誘ってくれたのに。今度二人きりでデートしましょうね。」

Kの髪をなでながら愛しそうに見つめるマリィ。

「はあ…」

とまどいながら社交辞令の返事をするK。

その歓迎会は教会で行なわれた。

「それでは、メイテ・キャロル隊員を歓迎して、カンパーイ!」

ミリサがグラスを持ってみんなとカンパイする。

「こんなチャーミングな方が新しい隊員なのですか?」

シスターのテリサがメイテを見て言う。

「なー。でもよ、ミリサの妹がこんなしとやかなシスターってのも驚きだよなあ。」Jが笑って言う。

「悪かったな!」

テリサはミリサの双子の妹だが、性格は正反対なのだ。

「だけど、メイテはこう見えてもあたし以上の銃の使い手で、運動神経もズバぬけているんだぜ!」

「お姉さまに強力なライバル出現というわけですね。」

笑って言うテリサ。

「まあな。」

ミリサはウィンクして答えた。

「あれ?テリサもKのことが好きなんじゃないのか?」

タキオがひやかす。

「そんな…私は神につかえる身…。そんな…」

テリサは赤くなって照れる。

「K、モテるのね。」

Kのとなりにきてメイテが言う。

「そ…そんなことないよ!」

なぜかあわてるK。そんな二人を見て、タキオがポツリと言う。

「…なんだかあの二人、もう何年もつきあってる恋人みたいだな。」

「悔しいけど、お似合いだぜ。」

ミリサも言う。二人を見つめるみんな。

そのころ、IPZの立ち入り禁止区域では、マリィ博士がコンピュータールームにいた。
Kの体の検査などをするマリィルームとは違って、そこはKですら入ることの許されない、
極秘データのある部屋だった。


マリィは一人でコンピューターに向かっていた。
現在のIPZ隊員である名前を出している。
『メイテ』で検索して、多くの名前の中からメイテ・キャロルの名前を見つける。

そしてある極秘データの画面にパスワードを入力すると、ファイルが開いた。
画面に半分ずつそれぞれのデータを出している。

そこにも多くの名前が出ている。またメイテで検索すると、メイテ・グロリアという名があった。
メイテとは名字が違うが、その名前のデータをそれぞれ開くと、顔の映像も出てきた。

その顔は…二つとも瓜二つだった。
おまけにメイテ・グロリアの顔は、メイテ・キャロルとちがう所といえば黒い髪ぐらいで、
まさしくKが何度も夢に見たあの少女と全く同じなのだ。
顔をしかめるマリィ。

「まさか…」

そうつぶやき、データを細かく見ている。
メイテ・グロリアのデータは…シャトルハイスクール2年D組。成績優秀。スポーツ万能…などとある。

そして最後に…2421年、5月13日、PM・1437分に起きた、
某国の新型爆弾機器の誤作動でハイスクールを中心に
半径100m四方のすべてのものが微粒子となって消し飛んだ事件の被害者のうちの一人とされていると書かれていた。


この事件はハイスクール消滅事件と言われている。マリィは更に細かくデータを照らし合わせてみる。
身長、体重はほぼ同じ。血液型もA型で一緒だ。DNAのデータもすでにそれぞれ出ていた。

結果は…微妙に違っていた。そして声紋のデータもあり、それぞれの声を聞くことができる。
何度聞いても同じ声だ。機械でもほぼ同一人物と立証された。
そして、指紋を重ねると…これは少し違っていた。百年近くも前の人物との数々の類似点に疑問を持つマリィ。

「いったいどういうことなの?」

マリィは別の名前を検索し始めた。そして出た名前は…ケイヤ・アドルフという名前だった。
データを開くと、また写真などが出てきた。


その顔はそう、Kの夢の中の姿だったのだ。その少年は、同じくハイスクール消滅事件で死亡した…とあった。
マリィは目を細めて画面のその顔をやさしく撫でた。そしてつぶやいた。

「ケイ…」…と。

「まさかね…そんなこと、あるはずが…」

マリィは再びメイテの顔を見て言った。
しかし、そのまま長い時間、厳しい表情でデータを調べ続けていた。



第二章 /「サイボーグの自殺」



タキオの家にて。
玄関が開いて、タキオの姉・ルチカと、弟のマキオが迎えてくれた。

「おかえりなさい。」

「兄ちゃん、おかえり!」

「ただいまっ!マキオ、明日は彼も非番だから、約束どおり連れてきたぞ!!」

「こんばんは…」

タキオの後ろからKが顔を出した。

「マイティーK!!」

喜ぶマキオ。

「すっごーい!本当にマイティーKって兄ちゃんの友達なんだ!」

タキオの家にKを連れてきたのは初めてだった。マキオは7才。わんぱくで元気な明るい少年である。
マキオはタキオの話や、テレビなどでKの活躍を見ていてすっかりファンになっていた。

「ああ、タキオはオレの親友だよ。」

抱きついてきたマキオを抱き上げて言うK。

「よかったわね、マキオ。あこがれのKに会えて…。」微笑むルチカ。

「姉のルチカです。いつもタキオがお世話になっています。」

Kに向かって挨拶をする。

「いえ、こちらこそ…。」

ルチカは25才で、なかなかの美人で優しいが、いつもどこか寂しげな瞳をしていた。
5年前に両親とも亡くなり、マキオの母親がわりをしてきた。

「ねえ、Kはサイボーグなんでしょ?体の中はどうなってるの?見せてよ!」

マキオは無邪気にKに言う。

「そ、それは…」

苦笑いをするK。

「こらっ、マキオ!」

怒るタキオ。リビングで食事をするみんな。Kが食べている姿をジッと見つめるマキオ。
マキオの二杯目のご飯をよそいながら、ルチカがKに尋ねる。

「お口に合うかしら?」

「とってもおいしいです。ルチカさんは料理上手ですね。」

「まあ、うれしいわ。」

「すっごーい…。Kは味もわかるんだ。サイボーグなのに人間と同じ物を食べるの?」

「マキオ!!」

またよけいなことを言う弟にハラハラするタキオ。
彼はKを人間と同じように扱っているし、
K自身が人間と違う所を指摘されることを少しつらく感じていることを知っていた。

「本当はサイボーグ専用に特別に作られた栄養剤っていうのがあってね。
それをここから直接流していれば、食事の必要はないんだけど…」

自分の右の手首のバンドを掴みながら説明するK。

「みんなと同じように、食べ物から必要な栄養をとることもできるんだ。」

「ふ〜ん…なんかよくわからないけど、不思議だね。Kって人間みたいだ。」

「あ…ありがとう。」

ちょっと笑って答えるK。

「K、うるさい弟ですまない…。」

申し訳なさそうに言うタキオ。

「いいんだよ。タキオの弟なら、オレにとっても弟だ。」

「本当っ?わーい!Kもボクの兄ちゃんだ!!」

はしゃぐマキオ。その時、テレビでニュースが流れる。
この時代はテレビも立体映像があたりまえで、まるでテレビのスタジオの一部が部屋にあるよう。

『臨時ニュースをお知らせします。先日逮捕されたブラック・ウイルスのメンバー3人が護送中に脱走しました。』

「なにっ?!」

びっくりするKとタキオ。

『脱走を手助けした者がいるとのことですが、詳しい情報はまだわかっておりません。』

「くそっ、またやられたのか!」

タキオは悔しがってテーブルを一回たたいた。グラスがゆれる。

「ブラック・ウイルスのメンバーって、一人も捕まっていないのよね?」

ルチカが聞く。

「ああ、捕まえても必ず脱走か…死亡している。」

タキオが答える。

「死亡?」意外に思い、驚くルチカ。

「自殺…もしくは、仲間に口封じに、殺されてるんだ。」

「まあ…」

恐がるルチカ。

「だーいじょうぶだよ!もうすぐ全員、Kが捕まえてくれるよ!!」

明るく言い放つマキオ。

「…がんばるよ!」

それはKに重くのしかかった。簡単ではないからだ。

そのころ、街の中のある倉庫で、小さなグレーの車がひっそりとパトカーがとおりすぎるのを待っていた。
運転席には頭に白い布を巻いた中年の男がいた。助手席には脱走した内の一人、赤い髪の男・ジェドーがいる。

「…助かったぜ、おやじ!サンキュー!!」

運転席の男はジェドーの父親らしい。

脱走させたのはこの男のようだ。後部座席にはリューズがいた。

「さすが、ブラック・ウイルスのボスね。やるーっ!」

「ハッハッ、はじめまして。お嬢さん。うちのバカ息子が世話になってるね。」

「いいえー、こ、こちらこそー…」

意外に紳士的なボスにびっくりするリューズ。

「ちょっとぉ、いいパパじゃない。私、あんたから彼にのりかえちゃおうかしら?」

ジェドーに耳打ちするリューズ。

「なにーっ?」

ちょっと怒るジェドー。

「あらあ?ところで、トラッグはどこ?」

話をそらすようにもう一人の男がいないことを指摘するリューズ。

「ああ…奴は安全な所に高飛びさせたよ…。」

葉巻を吸いながら答えるボス。

そのトラッグは、誰もいない田舎道を車で走っていた。

「へへへ、これで安心だぜ。ボスからたんまりとこづかいももらったし…。」

車をとめて、カチッと黒いケースのカギを開けるトラッグ。開いたとたん、中からカッと光が出た。

「えっ?」

次の瞬間、ドカーンという爆音と共に、トラッグは車ごと消えた。再び倉庫の車の中では…。

「もう二度と捕まりはしないさ…。」

と笑って葉巻の煙を口から出すボス。

「でもよー、なんでマザーコンピューターがあいつにはきかなかったんだ?他のロボットにはきいたってのに。」

ジェドーがボスに聞いた。

「強力なバリヤーでもあるのかしら?」

リューズも言う。

「ふふふ…もうすぐハッキリさせてやるよ。楽しみにしていなさい。」

何かを掴みかけているような口ぶりで言うボス。不思議そうな顔をしているジェドーとリューズ。

教会では、神に罪の許しを請うために人が訪れていた。小さな部屋で一人一人、話を聞く。

「神の慈しみを信頼して、あなたの罪を告白して下さい。」

薄い壁を隔てた隣の部屋からシスターのテリサが語りかける。

「主よ…私がこれからすることをお許しください。」

男がそう言うのを不審に思うテリサ。

「え…?」

「シスターを拉致することを…」

「!?」

それはジェドーだった。シスターの後ろに大男が二人、銃をつきつけていた。
男達に脅されながら、外に出るテリサ。そこにミリサが来る。

「ん?テリサ、そいつらは何だ?どこに行くんだ?」

「お姉さま…先ほどIPZにお戻りになったのでは?」

「ちょっと忘れ物をしたんでね…」

テリサがクビにしている十字架のネックレスをギュッとつかんでいるのを見て、様子がおかしいと気づいたミリサ。

「おい、おまえら!!」

すると、男達は銃を連射してきた。ミリサはよけて、建物の陰に隠れて銃を出す。

「おっと、こっちには人質がいるんだぜ。そこを動くな。シスターがどうなってもいいのか?」

「くっ…」

男達はテリサを車に乗せて逃げ出そうとする。

「待て!!」

ミリサが追おうとして出た時、敵に銃で攻撃された。

「うっ!」

「お姉さま!!」

ミリサはその場に倒れた。血が流れて土に広がっていった。
そのころ、住宅街で火事がおきていた。

「まだ中に祖母と子供が…!」

若い母親が叫ぶ。

「危ない!さがって!!もう人が助けに入れる状況じゃありません!
今、救助ロボットが二体、家の中に入りましたから、おちついてください!!」

消防士がとめる。

「救助ロボット?」

Jがかけつけていた。
その時、火の中から一体のロボットが子供に酸素を吸入しながら抱いて出てきた。

「ぼうや!」

母親が子供を抱きしめる。子供は3才ぐらいの男の子だった。

「ママ、おばあちゃんが…」

煤で汚れた顔で子供が泣きながら言う。

「婆さんは…もう一体のロボットはどうした?」

Jがロボットに聞く。

「モウイッタイノ、キュウジョロボットハ、ガレキニツブサレタ。」

このロボットはJやKとちがって性能の低い感じで、まさに機械的なしゃべり方をする。

「なにっ?」

あせるJ。

「モウヒトリノ、セイメイタイハ、モウ、タスカラナイダロウ。タスケテモムダダ。」

判断力も血の通わない冷たいものだった。

「きさまっ!このできそこないのポンコツが!!」

怒りながらJは救助ロボットを払い除けて、火につつまれた家に向かう。

「J!よせ!!もう建物が崩れるぞ!」

消防士が叫ぶが、Jは消防士から酸素吸入器を奪い盗り、急いで中に入って行った。

すると、もう一体の救助ロボットが柱の下敷きになっていた。

「チッ!」

さらに奥に進むと老婆が倒れていた。

「しっかりしろ!」

Jは老婆を抱き起こし、酸素吸入器を口にあてた。
Jがおばあさんを抱き上げて、逃げようとしたその時、頭上から天井の一部が落ちてきた。
Jはパンチでそれを粉々に砕いた。だが周りが火に囲まれてしまった。

「出口がなくなっちまったな…。」

Jはカチッと左手首をならした。すると腕が大砲のようになった。

ドカーンと家の屋根を突き破って、そこからJがジャンプして現れた。

「J!」

消防士が気づく。

「お婆ちゃん!!」

子供と母親が駆けつける。

「早く病院に…!」

老婆を救急車に乗せて、Jが離れようとした時、そのおばあさんがJの手を掴んだ。

「ジョージ…来てくれたの…?」

うっすらと目を開けてそうつぶやく老婆。

「………?」

頭の中が真っ白になるJ。

「お婆ちゃん…何言ってるの?」

子供の母親が話し掛けるが、Jが「シッ!」と止めた。

Jはなぜかおばあさんの言葉を聞きたかった。老婆はJを見つめて息もたえだえに話した。

「会いたかったわ…ジョージ…。先に逝ったお父さんには悪いけど…
私が生涯一番愛していたのは、あなたよ…。ジョージ…。ずっと、これを肌身離さず持っていたのよ…。」

指輪をJに渡す老婆。

「これからはあなたが持っていて…」

眠るようにスウッと目を閉じる老婆。

「おばあちゃん?」

「お婆ちゃん、しっかりして!」

子供と母親が叫ぶ。
Jは指輪を見つめる。裏にボタンがあるので押すと、立体映像が出てきた。
若いころの老婆と…Jそっくりの若者の姿だった。

「そういえば…お婆ちゃんがよく言っていたわ…。スーパーJが初恋の人に似てるって…」

泣きながら母親が話した。

「ジョージ…」

何かを思い出した様子のJ。救急車は老婆と家族をつれて立ち去った。
Jはボーッとその場にたたずんでいる。

『ジョージ…!ジョージ!ジョージ!』

その名前が頭の中で連呼されている感じだ。

「うわあああああああっ!」

頭を抱えて叫ぶJ。

「どうした?J!」

側にいた消防士が驚く。それから数時間後…IPZ本部にて。

「ええっ?スーパーJが?!」

休み明けで帰ってきたKとタキオ。隊員仲間のサムが二人に説明する。

「ああ、急に狂いだして研究所を壊して、そして…」

「なんだって?」

顔面蒼白のK。K達がかけつけると研究所の廊下でJがバラバラになって倒れていた。
上半身だけで、顔の半分が中の機械が見えてしまっているJ。

「ス、スーパーJなのか?」

おそるおそる話し掛けるK。すると力のない声が返ってきた。

「スーパーJ?オレはそんな名前じゃない…。オレの名前は…ジョージ・ガラティー…」

「えっ?」

何を言ってるのかわからず困惑するK。本当にJは狂ってしまったのだろうか。

「K…オレ達は…」

JはKを見つめながら涙を流した。その時、科学研究隊員達がやってきた。
つなぎの服を着て、腰に武器のような物を持った男達だ。
この連中はただの科学者ではなく、ある程度戦闘訓練もした特別な部署の者達だ。

「みんなさがれ!」

K達を押して遠ざけようとする。

研究所の廊下とを遮断するドアをしめようとした時、Jの左腕が動き、
大砲を自分の頭に向けていたのがKにはかすかに見えた。

「えっ…?」

ドアが閉まったその時、ドカンと音がした。

「J!」

叫ぶK。それからしばらくして、その現場からマリィ博士が出てきた。Kが駆け寄り、話し掛ける。

「ローラン博士!Jは…Jはどうなったのですか?!」

マリィは暗い表情で答えた。

「…Jは…死んだわ…!」

「なっ…」

ショックをうけるK。

「自ら頭部を破壊して…電子頭脳を修復できないほど壊してね…。」

「ど、どうして…。なぜこんなことに?!」

「電子頭脳に異常が生じていたのに、Jが検査を怠ったようね…。」

「そんな…」

Kにはどうにも納得いかない答えだった。

「あなたは毎日きちんと私のチェックを受けているからだいじょうぶ。」

「そんなバカな…!」

悲しみ、うつむき、力なく歩いていくK。その後姿をつらそうに見つめるマリィ。


IPZ科学研究所の立ち入り禁止区域のある一室で、薄明かりの中、メイテが一人たたずんでいた。
メイテの目の前には透明の入れ物があり、中には液体に浮かぶ脳の一部があった。メイテは泣いている。

「私にはできません!こんな現実を、暴露するなんて…!」

『また被害者が出てもいいのか?』

そこにはメイテの姿だけだが、男の声がする。

「残酷すぎます…彼は気づいてはいけない!気づいてほしくない!!」

メイテは泣きながら力いっぱい首をふった。

『おちつけ、メイテ!彼が同じようになるとは限らない。
彼は心の強い持ち主だ。そして、なにより…君がいるのだから…』


男は優しい口調でメイテをなだめる。

廊下をトボトボと歩いているK。

「しょせんロボットだな…!」

バカにしたような言い方でそう言ったのはやはりサイモントだった。

「もう一体はいつまでもつかな?」

Kは無視して歩きだすが…

「見たか?バラバラになったあいつをよぉ?」と言われて立ち止まる。

「えらそうに人間面していたが、ああなるとクズだな!ハハハハハ!!」

笑うサイモントに怒りで震えだすK。

「オレのことは何と言われようとかまわない…!だが、Jのことを悪く言うのは許さないぞ!!」

Kは大きな声で怒った。
しかし、サイモントは動じずにますます意地悪く言う。

「ほぉ?どうする?オレを殴るのか?おまえも狂ったと思われて破壊されるぜ!」

今にも殴り飛ばしたい気持ちを必死でおさえているK。
その時、いきなりサイモントの頬を叩いた者がいた。パンッといい音がした。

「えっ…」

叩かれた頬を抑えてキョトンとするサイモント。

「Kが暴力をふるわないのをいいことに…、あなたはひきょうだわ!」

叩いたのはメイテだった。

「メ、メイテちゃん…」

なさけない顔のサイモント。

「メイテ…」

Kもびっくりしていた。

「K…あなたは…」

Kをせつなげに見つめ、メイテは何かを話そうとする。

「えっ?」 「…!」

しかし、メイテは言いかけたことを止めてしまった。フイッと走りだすメイテ。

「メイテ!」

Kは追いかけようとするが、その時、ピーピーッと通信機が邪魔をする。





第三章 /「作戦」



「はい、こちらマイティーK…」

立ち止まり、バンドの通信機に応対するK。

『ごきげんいかがかな?マイティーKくん。』

男の声がするが、立体映像は現れない。

「?誰だ!」

聞きなれない声を不信に思うK。

『私はブラック・ウイルスのボスと言われている男だ。』

「何っ?!」

思いもよらないことに驚くK。

『君とじかに話がしたい。もちろん君一人で来てほしい。
君の知り合いも待っているから、こちらの要求は素直に聞いた方がいいと思う。』

その言葉のすぐ後に聞き覚えのある声が聞こえた。

『Kさま!』

「テリサか?!」

ミリサの妹のテリサが人質になっている。

『まずはこの電波をたよりにここまで来たまえ。君に会えるのを楽しみにしているよ。』

通信が切れた。

「くっ…」

悔しそうに走り出すK。外に出ると隣にあるIPZ特別医療本部に救急車が来ていた。
Kはもしやと思い、駆けつけた。思ったとおりだった。

「ミリサ!」「K…」

担架の上に横たわっていたミリサが力ない声を出した。

「ブラック・ウイルスにやられたのか?」

ミリサは銃弾を浴びたらしい。あちこち血だらけだった。

「あたしはだいじょうぶ…テリサをたのむ、K…」

ミリサはKの手を強く握った。

「…了解!」

Kはその手を両手で握り返し、敵への怒りでいっぱいの想いだった。

「K!」 「タキオ!」

そこへタキオが駆けつけてきた。

「話は聞いた。オレも行く!」

タキオは偶然さっきのやりとりを聞いていた。

「ダメだ!オレ一人で行かないとテリサが…!」

「奴らはまたコンピューターを使ってKを操ろうとするに違いない。
今度はそうとうパワーアップした物を使ってくるだろう。もしKが奴らの手に落ちたら…。
それを考えるととても恐ろしい…。」

「タキオ…。」

Kは親友であるタキオの想いを痛いほど感じた。

「だから、オレに考えがあるんだ。」

「えっ?」

タキオの考えに耳をかすK。その数分後、車で現場に向かうKの姿があった。

人の見当たらない町外れの、今は使われていない、古い工場跡だった。

入り口には立ち入り禁止と書いてある看板がある。そこから男と女が出てきた。
先日脱走した内の二人、ジェドーとリューズだ。

「ヘタなマネはするなよ。シスターの命を預かっているんだからな。」

ジェドーが緊張しつつ、笑いながら言った。Kは黙っている。

「おとなしくついてきな。」

うつむきげにジェドーについて行くK。後ろからはリューズが銃をつきつけていて、間に挟まれている。

建物の奥まで歩いて行く。その途中、部屋のドアがいくつかあり、その内の一つの扉の前に来ると
「入れ!」とジェドーがKを中に閉じ込めた。

そこは狭い密室で、天井の角に一つテレビモニターとカメラがあった。
テレビにはテリサが映っている。

「Kさま!」

「テリサ!!」

テリサは大男二人に縄で縛られて捕らえられている。

「えっ…?」

テリサはKの様子がいつもと違うことに気づいていた。ジェドーはその部屋からKをモニターで見ていた。

「よし、さっそくこれを試してみようぜ!」

ジェドーが楽しそうに言った。

機械を操作してKのいる部屋に妙な映像と特殊な音波を流した。

「うっ?ああああああっ!」

頭をかかえて苦しみだすK。

「きいてるみたいよ。」

リューズがおもしろそうに言う。

「今度はうまくいきそうだ。いいか?おまえはオレ達ブラック・ウイルスの仲間だ。」

ジェドーがマイクに向かって話す。
その声もKのいる部屋に響いていた。

「はい…。」

しゃがみこんでうつむいたままそう答えるK。

「オレ達、特にボスの命令は絶対だ。家族や友人より大切だ。わかったな?」

「はい…。」

立ち上がるが、うつむいたままのK。

「やったぜ!世界はオレ達の天下だ!!ハハハハハハ!」

ジェドーが笑い出すとみんな笑った。

「Kさま…。」

悲しそうな顔をしてうつむくテリサ。
その時、光が壁を突き抜けて、武器のすべてを破壊した。

「わっ!?」

驚くブラック・ウイルス達。

そして、ドカッと壁を壊して…Kが入ってきたのだ。
Kはテリサの側にいた大男二人を殴り倒し、テリサの縄を引きちぎった。

「Kさま!」

喜ぶテリサ。

「大丈夫か?テリサ!」

「は…はいっ!」

「マ、マイティーK?」

「そ、そんなバカな…!じゃあ、あいつは…?」

モニターを見るジェドー達。

密室にいるKの緑色の髪がパサッと落ちて、黒い髪が出てきた。かつらだったのだ。
顔を上げたその人物はタキオだった。

「何っ?」

「奴は偽者だ!」

騙されていたことに気づいたジェドー達。

「残念だったな。シスターを人質にするからバチがあたったんじゃないか?」

笑みを浮かべて言うK。

「くそっ!」

悔しがるジェドー。

みんな手を上にあげている。

「ボスはどこだ?」

Kが辺りを見回して聞く。

「ここにはいない。どこに行くかも聞いてねーよ。」

Kはそこにいたブラック・ウイルス全員に手錠をかけた。タキオも一緒にみんなを外に連行する。

「ちょっとどういうことよ。本当にボスの居所は知らないの?」

リューズが不安気にジェドーに耳打ちする。

「チェッ、計画がだいなしだぜ…。」

ぼやくジェドーだったがその時、ジェドーのピアスから男の声が聞こえてきた。

『いや、計画どおりだ。』

「えっ?」ボスの声だ。

『奴は使える。』

IPZ本部にもどると、タキオが言った。

「K、テリサをミリサのいる病室に連れて行ってやってくれ。こいつらはオレに任せろ。」

「わかった。」

Kは言われたとおり、ブラック・ウィルス達をタキオに連行させて、
ケガをおったミリサの所にテリサを連れて行くことにした。
病室に行くと、ミリサがベッドに横たわっていた。

「お姉さま!!」

「おお、ミリサ、無事だったか。」

「ええ、Kさまとタキオさまに助けていただいて…。」

「サンキュー、K!」

「ああ、それより具合はどうなんだ?」

「大丈夫、一ヶ月もすれば退院できるってさ。」

「まあ、一ヶ月も…」

相変わらず元気そうに話すミリサだが、ケガは全治一ヶ月。
そう軽くはない。しかし一ヶ月すればまた元どおり活躍できるのだ。

Kは優しく言った。

「ちょうどいい機会だ。ゆっくり休むといい。」

「そうさせてもらうよ。それで、ブラック・ウィルスはどうした?」

「先日脱獄した二人と、別の男二人は捕まえたんだが…肝心のボスの居所がまだわからないんだ…」

「そっか…ま、奴らも風前の灯さ。K一人で100人の隊員以上の活躍だもんな。
Kのおかげで犯罪じたいも減ってきているってうわさだ。
天下無敵の正義の味方が今や現実にいるんだぜ。あたしらに恐い物なんてないよ。」

「………」

確かに普通の人間から観ればKは完璧に観える。だが、
Kは普通の人間と同じように不安や悩みなどもあるのだ。
その様子を離れた所からメイテが見ていた。

病室から廊下に出るK。その後をすぐにテリサが追い、声をかけようとした。

「Kさ…」

しかしその時、Kの前にメイテが現れた。

「K!」

「メイテ…」

テリサはとっさに隠れて様子を伺う。

「プレッシャーかな?」「えっ?」

無邪気な笑顔で話すメイテ。

「“オレはスーパーヒーローなんかじゃない”なんて、思ってるんでしょ?」

「そりゃあ…」

「スーパーヒーローだって完璧じゃないわ。でもだからこそ、温かい心を持っていられるんじゃない?」

明るく爽やかに言われて、Kはおだやかな気持ちになった。
なぜか懐かしいような…不思議な気分で、Kはメイテと楽しげに話している。
それを見て、テリサはちょっとヤキモチをやいていた。

「Kさま…」

そこへタキオが来る。

「K、来てくれ。」

メイテはだまって見送るが、タキオの様子がちょっとおかしいことが気になった。
タキオはKを外にあったワゴンのような車の側に連れて行く。運転席に誰かいる。

「つきあってほしい所があるんだ。」

後部座席に座る二人。Kが聞く。

「どこに行くんだ?」

すると運転席の男が振り返り、「ボスの所さ。」と言う。

それはさっき捕まえたはずのブラック・ウィルスのメンバーのジェドーだった。

「なっ?おまえは…」

驚くKの隣にいたタキオがKの耳に小さい銃のような物を押し当ててパシュッと何かを打ちこんだ。

「タ…キオ…」

Kは気が遠くなり、意識を失った。

ニヤッと笑うジェドー。

助手席にはリューズ、後ろの広いラゲッジルームにもう二人の手下の男達が乗っていた。
みんな再び自由になったのだ。


Kが目を覚ました時、体はベッドに鉄のベルトで固定されていた。

「お目覚めかな?Kくん。」

上から見下ろしている男がマイクごしに声をかける。

ガラスで隔たれた別の部屋からKを観ているのだ。

「…おまえが…ブラック・ウィルスのボスか?」

「そうだよ。君と会えて光栄だよ。Kくん。」

Kはタキオの様子がおかしかったことを思い出した。

「タキオに…何をした?」

「あれはこちらとしては計算外だったんだよ。彼は君の身代わりになったんだ。」

「…?どういうことだ?」

確かにタキオがKの代わりにマザーコンピューターの波動を受けたが、あれは電子頭脳を支配する装置のはず。
人の脳には無害のはずだった。

「君は自分の体のこともわかっていないのかね?さきほど君が気を失ったのはなぜだと思う?」

「マザーコンピューターの改良品でも作ったのか?」

「まあね。でもそれだけでは君には通用しない。特製の催眠剤も併用している。」

「催眠剤?」

「まあ、詳しいことはこうすればハッキリするさ。」

機械を操作するボス。ガコンとKの寝ているベッドが動き出す。

「何をするつもりだ!?」

「安心したまえ。べつに君を分解しようというのではない。
あることを確かめたいのだ。君も知りたいことだと思うよ。」

「くっ…」

Kは手足を押さえつけているベルトをはずそうともがく。

「抵抗しようとしても無理だよ。もうしばらくは君の攻撃システムは作動しない。」

ガーッと、ベッドごとKは機械の中に入っていく。どうやらCTスキャンのような物らしい。
しかし始め、機械は作動しない。エラー信号が出てしまう。ピーッと音がする。

「おっと、やはり透視妨害システムがあったか。」

再び機械を操作するボス。

「よし、解除に成功したぞ。」

画面にKの体の中が映る。断面図である。

「…思っていたとおりだ!これはすごい…!!」

ベッドが機械の中から出てくる。

「ど、どういうことなんだ?オヤジ?!こいつはいったい何なんだ?!」

驚きながら、ジェドーが聞く。

「……?」

何のことだかわけがわからないK。

そのころ、Kのいるそのブラック・ウィルスのアジトに、メイテが着いた。




第四章 /「秘密」


「ここがブラック・ウィルスのアジト…。」

メイテが来たのはずいぶん前から使われなくなっている大きな工場跡だった。

「K…」

メイテは銃をかまえ、警戒しながら入って行く。
近くに大男が二人見張っているのに気づき、すばやく麻酔銃を撃つメイテ。

「うっ!」

「うわっ!!」

ボスの近くで監視カメラのモニターを見ていた男がその様子に気づいた。

「ボス、侵入者です。」

「ほう…君の恋人かな?Kくん。」

Kの目の前にあるモニターにもメイテの様子が映し出された。

「メイテ…!!」

監視カメラを担当していた男がコンピューターを使って、レーザー光線をメイテに向って撃ちまくる。
メイテはそれを軽やかな動きでよけながら、設置してあるレーザー銃を破壊していった。

「どんどんレーザー銃が壊されています!」

「なかなかやるねえ。女性一人で…。」

手下はあせっているのに、ボスはおもしろそうに観ている。

メイテはヒラリとレーザーをかわした時に、ネックレスを落とした。
それに気づかずにメイテは地下に向うエレベーターに乗り込んだ。

「あの女…ここに向って来てるみたい。」

リューズが不思議に思い、言った。

「なんで場所がわかるんだ?」

「Kくんの腕のバンドか。」

ジェドーは多少のあせりを出すが、ボスはどこまでも余裕だ。すべてが想定内らしい。

「えっ?ただの通信機じゃなかったのか?」

「探知信号も発しているようだな。…さて、彼女にも我々の仲間に入ってもらおうか。」

ボスがコンピューターを操作すると、メイテの乗っている
エレベーターの中に強力な催眠音波が放たれた。タキオの時と同じらしい。

「やめろ!!」

Kが叫ぶ。

「おまえはブラック・ウィルスのメンバーだ!ボスの命令を忠実に聞く下部だ!!」

メイテはうつむいたまま静かに答えた。「…はい…」

「メイテ…」

悲しい顔でメイテをモニターごしに見つめるK。

「オヤジ、Kにも服従させられるくらいやったらどうだ?もともとそのつもりで作ったんだろ?」

「実験をしたかっただけだ。それにこの装置も完全ではない。脳に異常をきたす恐れがあるからな。」

「何っ!?きさま…」

タキオとメイテのことを心配するK。

「だからKくんには協力してほしい。我々の味方になって、共に世界を支配しようじゃないか。」

「そんな話に、オレが乗ると思うか?」

「IPZの本当の姿を知れば、君も考えを変えると思うがね。」

「何のことだ?」

その時、Kの手首の通信機がピーピーと鳴る。
しかしKはまだ動けない。ボスがすばやくKのいる所まで行き、通信機のバンドを外してカチッと開けた。

『K、どうしたの?動作機能、攻撃機能に障害が発生しているわね。』

マリィ博士の声だ。

「そのとおり。マイティーKくんは私がお預かりしているよ。」

『誰っ!?』

「ブラック・ウィルスと呼ばれているボスだ。」

『何ですって!?…Kをどうする気?』

「彼は素晴らしい。私の息子に迎えたい。」

『バカを言わないで。Kは私の物よ…!』

「ハハハ…女博士、IPZと私の友好関係を結ぶことを上層部に勧めてくれないかね?」

『あなた、自分が何を言っているかわかっているの?IPZを甘く見ると痛い目にあうわよ。』

「世界のすべての者にばらしてもいいのかな?Kの秘密を。」

『…何のこと?』

「フフフ…10分だけ待ってあげよう。全国のテレビにその証拠を映すか、
ブラック・ウィルスにIPZが協力するか、どちらかだ。」

通信を切るボス。
メイテはエレベーターの中で立ったままだ。そこへ手下の男達が二人来る。
エレベーターの中の監視カメラから、少し外れた所にメイテを連れて行く。

「よお、彼女、名前は何ていうんだ?」

「…メイテ…」

「メイテか、かわいいじゃねえか。ヘヘヘ、オレにキスしてくれよ。」

「オレにも!抱きしめて、あつーいキスをな!!」

うつろな目のまま、少し微笑むメイテ。

Kはメイテがそんなことになっているとは知らずにいる。

「タキオはどこだ?」

「彼にももちろん、協力してもらっているよ。」

そのころタキオは都心から離れた小さな町の図書館にいた。館長である初老の男と話している。

「最近は図書館の書籍の全部をコンピューターで読む者ばかりだが、その原本はまだきちんと残してありますよ。」

「事件年鑑関係を観たいんですが…」

「それなら、こちらです。」

図書館の奥に通されるタキオ。一般人は入れない倉庫だ。

「ありがとう。ちょっと調べたいことがあるので見せてもらいます。」

「ああ、どうぞ、ごゆっくり。」

一人になったタキオはさっそく膨大な資料をあさり始めた。
IPZ本部では、最高幹部極秘会議が行われていた。

「我々の…いや、街の平和の敵である存在のブラック・ウィルスのアジトがわかったのか…」

「ボスやメンバーのほとんどがまだそこにいるなら…G作戦を決行しよう…!」

幹部の男達の話を聞いて、マリィ博士は席を立って意見した。

「ちょっと待ってください!そこにはkが捕らわれているんですよ!?」

「彼なら脱出できるだろう。」

「このコンピューター社会を脅かす危険な犯罪組織を抹消する絶好のチャンスだ!」「しかし…」

Kのことを心配するマリィ。

「時間がないんだろう?すぐに実行だ!!」

「…はい…」

マリィはしかたなく了解した。

そして、図書館のタキオは、何かを見つけた。
タキオは図書館のPCから、ブラック・ウィルスにデータを送る。
パスワードが必要だったが、それは前もってメンバーから聞いていた。

ブラック・ウィルスのアジトに、タキオからPCにデーターが送られたきた。
受信したメンバーが、ボスに知らせる。

「ボス、これがIPZの極秘データーなんですか?」

「2124年、高校消失事件…これだ!!」

ボスの目が色めき立った。

「一般のコンピューターからはアクセスできない物が、なぜ田舎町の寂びれた図書館なんかに?」

「フ…コンピューターしか頭にない連中だからな。そこが落とし穴だ。
もし時間までにIPZが要求を呑まなければ、
この資料と先ほど撮ったCTスキャンの映像を全世界にテレビで放送するのだ。」

手下の男二人にそう指示し、ボスはジェドーとリュ−ズを連れてその場から離れた。

その途中、ボスはメイテの落としたネックレスを拾い、持って行った。

『起動5分前!』

IPZ本部からブラック・ウィルスのアジトに向けて何かがセットされていた。

メイテに話しかけていた男達はなぜか必死に外に逃げ出していた。
その様子を不審に思い、手下の二人があせりだす。

「おい…なんかやばくないか?」

「…まさか…」

その時、Kにだけメイテの声が聞こえる。

「K!すぐにここから逃げて!!」

「!?メイテ?」

とたんにKの体がいつもどおり動くようになった。

押さえつけられていたバンドをひきちぎり、起き上がる。

「なっ!?まだ動けないはずだぜ!」

あわてて銃を構える二人の男。
だがガシャンとガラスを割り、Kが入ってきて銃は蹴り飛ばされる。そこにメイテも入ってきて叫ぶ。

「みんな、早くこの建物から出るのよ!!」

「メイテ、大丈夫だったのか!?」

「う、うそ…何で…」

二人の男達は驚いて固まってしまう。

「ここはもうすぐ消えるのよ!」

「何っ!?」

ゴゴゴという地鳴りのような音が響く。

「ブラック・ウィルスの他のメンバーはどこ?逃げ道があるはずよ!」

「え…さあ?オレ達はそんなこと聞かされていない…」

「くっ…とにかくみんな早く逃げて!!」

メイテはKの手を握り、走り出す。男二人も後に続く。

建物が揺れてしだいに崩れだした。その中をみんな必死に走り抜ける。
外の光が見えた時、Kは強い悪寒のような感覚に襲われた。あの夢を思い出す。
体が崩れていく恐怖、痛み、彼女…。手をつないでいるメイテと重なる。

次の瞬間、建物が崩壊した。上に舞い上がったかと思うと、どんどん消えていく。

「うわああああ!!」

二人の男達がバラバラになって行くのが見える。

メイテが「…ケイヤ!」と呼んだ気がした。

そのころ、マリィ博士は一人、その建物が崩壊するのをPC画面で観ていた。

「K…どうか無事でいて…」

祈るマリィ。
しかし、Kとメイテはもう、そこにはいなかった。

「ここは…どこだ?」

Kが目を開けた時、知らない場所にいた。手をつないでいたメイテと共に。

「…私の家よ…」 「えっ?」

そこはあたり一面花に囲まれていて、白い建物が一つあるだけだった。

「よかった…今度は成功して…」

「…?」

メイテはゆっくりKに抱き、涙を浮かべて言った。

「ちゃんとあなたと一緒に来れた…」

「いったい…何があったんだ?メイテ…これは…どういうことだ…?」

メイテが顔を上げると、涙がこぼれ落ちた。悲しい笑顔で。

メイテは部屋の中にKを案内した。

「そこに座って。」

メイテがイスを指差して言う。
Kはそこに座り、部屋の中をキョロキョロ見ていた。

部屋の中なのに緑がいっぱいで、とても安らぐ空間だった。

メイテは小さな機械からジュースをコップにそそぎ、テーブルに置いた。

「どうぞ。」

「…ありがとう。」

Kはそのジュースを少し口に入れた。

ほのかに甘みのある、爽やかな味のする飲み物だった。

「…メイテ…君はいったい…?」

「…昔…それを告白しようとして、どうしても言えなかった…。嫌われてしまうのが怖くて…」

「え…?」

Kはあの夢の一部を思い出す。

《「ねえ、ケイヤ。私のこと…好き?」

「な、なんだよ?今更…。」

「ちゃんと答えて!」

「す…好きに決まってんだろっ!じゃなきゃつきあわねえよ!!」

「じゃあ…もし、私が…」 「えっ?」

「何でもない…」 「何だよ?」

「何でもなーい!」》

「あれは…ただの夢…じゃなかったのか…!?」

「私はあの時、あなたと一緒に逃げるつもりでさっきと同じ事をしたわ…。」

「まさか…テレポーテーション?!君は…エスパーか?」

メイテはうなづいた。
一方、ブラック・ウィルスのボス達は、そのころ、地下の抜け道を通って、爆発から逃れていた。

「マジでやりやがった…」

ジェドーが少しおびえた様子で言った。
地下に用意していた高速の乗り物で、遠くまで逃げることができたのだ。

さっきまでアジトだった建物は跡形もなく吹き飛んでいた。
手持ちのノートPCのような物でその様子を観ている。

「ひっどい連中ね!警察の仲間であるマイティーKを巻添えにしてまで、あたしらブラック・ウィルスを倒そうなんて…」

リューズも驚いている。

「Kは無事だよ。そうなるとわかっていて、奴らは実行したのだ。」

ボスが相変わらず落着いた口調で言った。

「え?サイボーグがあの爆発に耐えられるってのか?!まさか…」

信じられないと言うジェドー。

ボスは先ほど拾ったネックレスのロケットを開いた。すると、そこから小さな映像が出てきた。

それは…Kが夢で見た少年だった。明るく微笑んでいる。

「誰だ?それ?」

ジェドーが聞いた。

「なんか…あのKってサイボーグに似てるわね…」

リューズが言った。

ボスは口の端を吊り上げてフッと笑う。メイテはうつむき息をはいて、顔をあげた。
願うような真剣な目で。

「あの時私が言おうとしたことを、今言うわ。」

Kは黙ったままうなずいた。

「もし…私が……」

メイテは息をつまらせたがすぐに言葉を続けた。

「…地球の…人間じゃなくても…あなたは私を好きでいてくれる…?」

「……!!」

「そう…ここは私の生まれた星…地球よりずっと小さくてずうっと遠くにある美しい星…ノペリアム…」

どうりで見たことない景色のはずだった。地球にはない物なのだから。
おいしい空気、輝く自然、…そして何よりも美しかったのは、彼女だった。

「うちあけるのが遅れてごめんなさい…」

メイテの頬に涙が光っていた。メイテは異星人。だから不思議な力を持っていたのだ。

そういえば、昔、そんなマンガや小説、映画がたくさんあった。

人類のテクノロジーの急激な進化には異星人が関係しているという噂があった。
しかし、どれも正式に発表されたわけではないのでどんなに科学が発展しても信じない者が多い。

「ノペリアムの人間は、皆特殊な力を持ち、寿命がその力の強さと比例するの…。」

だから彼女は年をとらないのだ。ならば本当にメイテはあの時の…ケイヤの恋人と同一人物ということだ。

「…君のことはわかった…。でも…じゃあ、オレは…オレはいったい…?」

メイテの表情が今まで以上につらそうに見える。



続く







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